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水戸地方裁判所 昭和45年(ワ)71号 判決 1970年6月01日

原告

小林孝一

被告

小林武

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

本事件につき当裁判所が昭和四五年三月一七日なした強制執行停止決定を取り消す。

前項に限り、仮りに執行することができる。

事実

一、原告は、「被告が訴外五十嵐房吉に対する水戸地方法務局公証人鈴木英三郎作成昭和四五年第三一八号金銭消貸借公正証書にもとづき別紙目録記載の物件(以下、本件物件という。)に対してした強制執行はこれを許さない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、次のとおり陳述した。

(一)  被告は、訴外五十嵐房吉に対する前示債務名義にもとづき、昭和四五年三月五日五十嵐房吉方において、水戸地方裁判所執行官臨時職務代行者柏保雄をして、本件物件の差押えをなした。

(二)  しかし、右物件は、原告が昭和四五年二月七日五十嵐房吉に対し金一〇〇万円を貸与した際その担保として同人から無償で譲渡を受けるとともに占有改定の方法によつて引渡しを受け、原告の所有に属するものである。

(三)  したがつて、本件物件を五十嵐房吉の所有に属するものと認めてした強制執行は違法であるから、その排除を求めるため、本訴請求に及んだ。

二、被告は、本件口頭弁論期日に出頭せず、かつ、答弁書その他の準備書面も提出しない。

理由

一、請求原因事実は、いずれも被告の明らかに争わないところであるから自白したものと看做す。

二、そこで、本件の請求について考察するに、前示認定事実によると、原告は五十嵐房吉に対する債権の譲渡担保として本件物件の譲渡を受けたというのであり、右被担保債権の弁済期が未到来であることは、本件口頭弁論の全趣旨に徴して認めるに足りる。ところで、譲渡担保なるものは、債権者が弁済期に債権の弁済がなければ譲渡担保物件を換価処分してその代金を被担保債権の弁済に充てることができるけれども、残額があれば物件提供者にこれを返還し、換価金が被担保債権額に不足する場合には不足額について債務者の財産に執行することができ、他方、債務者は、債権者が換価処分をするまでに被担保債権を弁済して譲渡担保物件を取り戻し得るものであると解すべきものである。これを要するに、譲渡担保は債権者のために優先弁済権を確保すればその目的を達するものであるから、債権者は、右換価処分前民事訴訟法第五六五条の優先弁済の訴を提起するは格別、その担保の目的を越えて所有権を主張し、第三者異議の訴により後順位債権者の強制執行を排除することは許されないものといわなければならないのである。

三、それならば、本件物件の所有権を主張して本件強制執行の排除を求める原告の本訴請求は、失当として、棄却せざるを得ない。よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、強制執行停止決定の取り消しおよびその仮執行の宣言につき同法第五四八条を適用し、主文のとおり判決する。(長久保武)

別紙・物件目録《省略》

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